またまた『紅白歌合戦』…そんで、カイト、で岩崎弥太郎と根無し草
2020/01/19
皆が「おもしろくなかった」というので、むきになってネタにしているわけではないが、何回も言う。『紅白歌合戦』は録画してみよう。探せば(?)意外におもしろいのである。その中の一つが、嵐が歌った『カイト』だった。
嵐に関しては、ファン以外の人からは、紅白での扱いに対して批判的な意見も多かったし、僕自身特に嵐ファンでもないし米津玄師ファンでもないので、大晦日に観た時は聞き流していた。今回録画して観た時に、ちょっといいなと思ったものの、まず「なんでカイトなんだ」という、カタカナ使いが嫌だった。「凧でいいだろう」と。しかし、これも何度か観てみた。何度か観ようと思ったのだから、何かが引っ掛かったのだろう。それでわかった。「これは意外にいい」ってことが。まあやっぱり、カイトは凧でもよかったとは思うが(笑)。
どこがよかったかというと、最後の方の詞である。途中の『母は言った「泣かないで」と 父は言った「逃げていい」と』ってとこでもぐぐっと来た。これは個人的に好きな部分。でも、僕にとっての凧のイメージは、糸が切れて空高く遠く彼方に飛んで行くって感じだったので、夢を追いかけて親を振り切り自由に羽ばたいていったという歌かと、勝手に解釈していた。しかし、違ったのだ。
最後の方の詞である。
『そして帰ろう その糸の繋がった先まで』。
これにはやられた。なるほどなと。
その前の詞が、小さい凧でありながら、嵐の中も頑張って、悲しいことがあったってそれも乗り越えて、どこまでも頑張って行こう、みたいな感じだったので、やっぱり前述の僕のイメージ通り“空高く夢を追い続け自由に羽ばたけ”ってことなんだと思っていた。
しかし、違った。“そして帰ろう”なのだ。“糸の繋がった先まで”なのだ。頑張って頑張って、もひとつ頑張って、で、最後は帰って来ようよと歌っている。これはやられた。そういう発想なのか、と。
昔から僕は、浮き草のような人生も悪くないなと思って来た。しかし、本当に浮き草のようになってしまった今、無性に地に足の付いた人生を想ってしまう。故郷にも帰れず、だからといって都会に骨を埋める気概もない。たぶん、18歳で故郷を飛び出した時に僕は、浮き草となってしまったのだろう。当時は気づかなかった。当時はいつでも帰れると思っていたから。でも40年弱経ってしまった今も、まだ帰ることができない。帰りたいのに帰れない。僕という凧の糸は切れてしまっているのかもしれない。
本宮ひろ志の漫画に『猛き黄金の国 岩崎弥太郎』というのがある。明治の動乱を生き抜き、三菱財閥を興した岩崎弥太郎を描いた作品である。その中に、弥太郎が母・美和に、こう言われるシーンがある。
『花も実も根の力、草木も根を断てば実をなさぬ…』
坂本竜馬やジョン万次郎に触発され、脱藩しようとした弥太郎に、母は「根だけは切るな」と諭した言葉なのだそうだ。
秋田魁新報社の秋田さきがけ新聞に連載していたエッセイ『遠い風近い風』(2015年の7月25日版)にも書いたことがあるが、弥太郎の生涯肝に銘じていた言葉が、この言葉だったらしい。僕のはまだあるのかどうかわからないが、カイトの糸がまだある人は、糸を大切にして、そしてそしていつかいつか、“その糸の繋がった先”に帰ってほしい。
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