たけしさんのキタノ・ブルー
2020/01/17
『紅白歌合戦』の話が続いて申し訳ないが、今回はビートたけしが歌うということで話題になったので、その話を少し…。
僕の単行本デビュー作が『監督たけし』という、映画『その男、凶暴につき』のドキュメンタリー本だったこともあり、出版後も、たけしさんのことは、ずっと気になっている。映画の撮影中の3ヵ月、たけしさんが起きてから寝るまでずっとひっついて取材していたのだから、なんとなく他人とは思えない(たけしさんからすれば、おまえ誰?って感じだろうけど)。
そんなたけしさんの映画の特徴を表す言葉の一つに“キタノ・ブルー”がある。たけしさんの映画は全編を通して、この“キタノ・ブルー”と呼ばれる青を使う傾向があるというのだ。
ただ、初監督作品である第一作目の『その男、凶暴につき』では、まだ“キタノ・ブルー”という言葉はなかった。ただ、あの“青”はあった。それはそれは美しい“青”だった。照明は、高屋齋さん。その後もたけしさんの片腕として北野映画に参加している。キタノ・ブルーの生みの親ともいえる人だ。
僕は自著『監督たけし』の中で、次のように書いている。
『高屋さんがカメラをのぞいて指示を出し、それを受けて中村さんがライトを動かしているスタッフに指示を出すと、目の前には昼であろうと夜であろうと自在のシチュエーションが作り出される。ハスラーがテーブルの上を何クッションもさせて目当てのボールを正確にポケットに弾き出すように、その指令は美しい連係プレーで素早く正確に伝達されていくのだ。』
『酒井のようすを見に行った帰り、我妻が一人雨に濡れた路地を歩くシーンも、照明は神秘的なほど美しい。完璧にセッティングされ、大きなライトにスイッチが入った瞬間、あのうるさい野次馬たちでさえ一瞬息をのみ、誰からともなくこぼれたため息が大きな共鳴音をおこしたほどだ。』
ちょうどこのシーンの撮影の時の“青”が、後に“キタノ・ブルー”と呼ばれることになる“青”だったとは、当時の僕は知るよしもないが。
ただ、この“青”を『神秘的なほど美しい』と感じた僕は、おそらくここからこの“青”を、最も好きな色として認識するようになったのだと思う。
それまでも空の青、海の青が僕のお気に入りだった。紺碧という言葉をよく使い、詩にも登場させている。しかし、どんな青が好きかまでは、あまり考えたことがなかった。“キタノ・ブルー”に出会って、「そうかこの色か」と思ったのである。
そんな“キタノ・ブルー”を表現したのが、『紅白歌合戦』でたけしさんが歌うシーンでの演出だった。なかなかに美しい“青”だった。これにまた、たけしさんのちょっとへたくそな歌が似合うのである。詞の一つ一つを噛みしめながら繰り返し観てしまった。そして何度も泣いた。ビールを飲んでたせいで、涙腺がゆるくなってたこともあるが(笑)。このシーンだけでも、紅白を録画しててよかったと思ったのである。
関連記事
-
『日詩』4月11日〜20日アップしました
日々、いろいろありますが、 日誌ならぬ『日詩』続けております。 よろしければ 『 …
-
世界一の花時計だとか
少し前に、伊豆の土肥温泉に行って来ました。もともと西伊豆は好きな場所の一つですが …
-
30年前のアメリカ紀行備忘録11
幸い来てくれたポリスは、割と親切なメキシコ系アメリカ人。移動の件もスルーのまま …
-
30年前の東成瀬村取材
僕が4年3ヶ月勤めたフロム・エー編集部。テレビのADをやっていたのはまだ学生の …
-
日詩 6月11日〜20日(2018)
日詩のまとめです。 日詩(ツイッター詩まとめ) 6月11日〜20日 例えばこんな …
-
郷土料理『のとろ』(秋田県東成瀬村)
うちの村なのか、うちの家なのかわからないが、僕が子供の頃から食べている料理(鍋と …
-
ウルトラマンの円谷英二は大器晩成だった…らしい
※画像は、円谷プロ公式サイトより https://m-78.jp 2月13日 …
-
タクシー内で訛りが聞かれないような空間を(笑)
タクシーがチョイ乗りを始めたらしい。なんと東京都心は初乗り410円だとか。2キ …
-
新百合ヶ丘産経学園にてエッセイ教室を4月から開講
現在、よみうりカルチャー横浜横浜と、相模大野で個人教室として、エッセイをお教え …
-
『日詩』のまとめ。10月11日〜20日分です。
『日詩』ツイッター詩まとめ(10月11日〜20日)
- PREV
- 紅白歌合戦はもう一度録画で
- NEXT
- またまた『紅白歌合戦』…そんで、カイト、で岩崎弥太郎と根無し草