桂乃徒然

文筆業 佐々木桂 公式ウェブサイト

*

尺八

      2020/01/07

 滝廉太郎の『荒城の月』を吹けるようになりたい!という単純な理由で尺八を習いに行ったのは今から20年前。リクルートが発行していた『ケイコとマナブ』という雑誌に載っていた個人指導の尺八教室だった。
 尺八教室というと着物に袴、ものものしい雰囲気の中でお稽古するものだと勝手に想像し、最初はかなり緊張したものだった。しかし、玄関のドアを開けて出て来た先生は、ジーンズにTシャツという気さくな格好のお兄さん。それが森田柊山先生だった。
 今では“都山流尺八楽会専務理事”という手の届かない大重鎮になってしまわれたが、当時は、まだそこまでではなかったのだろう。初心者の僕の馬鹿な質問にも丁寧に答えてくれる気さくな先生だった(もちろんご本人は今でも気さくだが)。
 そんな柊山先生だったから、飽きっぽい僕もしばらく続けられたのだと思う。しかし、腕の方はというと、これが一向に上達しない。『荒城の月』どころか、音すら出せない状態がしばらく続いた。
 それでも月一で通ったかいがあって、洋楽でいうところのドレミファソラシドのような基本音階となる『ロツレチハ』だけは、何とか出せるようになった。しかし尺八の世界には、さらに高音の『ロツレチハ』、そしてそれらの半音、さらにメリとカリという特殊な吹き方で出す音、その先には高音階のハを越えるさらに高い音……と、果てしない難題の山々がそびえ立っている。
 当時の僕は唖然呆然。「こんなのできるわけがない」と挫折してしまった。しかし、手元には尺八がある。楽器自体は好きなので、時々手にとって鳴らしてみる。そうするとまた始めたくなる。独学でまた練習を始めるも難しくてまた挫折。そんな繰り返しを10年ほど続けたのち、ずっと通ってなかった柊山先生にまた連絡を取り、習い始めることになる。
 習うとやはりコツがわかる。もはやお忙しくなられてしまった柊山先生は、それでも初心者の僕に丁寧に付き合ってくれたので、独学とは違い少し上達するのである。おかげでメルとカリ、そして半音までは、少し音が出るようになった。まあ、何回かに1回なのだが(笑)。しかし、これができるようになると、かすれた音ながら、初歩の『荒城の月』が吹けるのである。柊山先生から頂いた楽譜には、二つの『荒城の月』があり、そのうち易しい方だけは少し音が出るようになった。これは嬉しい。練習意欲も湧いて毎月通いと思った頃、私生活が忙しくなり、またもや通えなくなってしまった。
 どんな楽器でもそうだろうが、毎日触っていないと元に戻ってしまう。尺八ももちろんそうで、音は出るものの、確実に音がかすれる。つまりヘタになる。そうなると練習意欲もなくなり、尺八から遠ざかってしまう。そしてまた10年。今年はまた始めようかと思っている。もはや柊山先生に頼るわけにもいかないので、しばらくは独学で、まずは慣れるところから始めようと、年末から少しずつ吹き始めている。音が出なくても、かすれてしまっても気にせず、まずは毎日触ることからだと言い聞かせ、家族に嘲笑されながら吹いている。何でも少しずつ少しずつなのだと、飽きそうな心に言い聞かせ、だましだましやっている。はてさて、1年でどうなることやら(笑)。

 - 2020年, 日々の徒然

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

  関連記事

no image
ライスカレーの哀しい想い出

子供の頃 、なんであんなんにライスカレーが楽しみだったのだろう。うちの場合、大概 …

坂本龍一氏の言葉にすっきり!「音楽の力」に違和感あった

 2日の朝日新聞に、坂本龍一氏を取材した『「音楽の力」は恥ずかしい言葉』と記事が …

わがまま王子は世間知らずなだけ?

わがままだった王子がいました あまりに自分本位で意地悪なので 魔女が懲らしめるた …

日々の徒然
大学受験共通一次試験失敗

 入試のシーズンである。この季節がくるたびに思い出すのが、受検の失敗。  僕らの …

贈り物『島本食品』の明太子、おいしく頂きました

 博多の知り合いから、明太子を送られて来た。彼とは毎年、米と明太子の物々交換をし …

我が故郷・東成瀬村の『広報ひがしなるせ』

故郷・東成瀬村(秋田県)から、毎月『広報ひがしなるせ』が届く。 これが毎回楽しみ …

曹洞宗の二大総本山・総持寺

神様にお参りしたかと思ったら、次の日は仏様。この節操のなさが日本人の良いところ。 …

宇崎竜童さんと誕生日が一緒

 以前、宇崎竜童さんのインタビューをした旨の話を書きましたが、実は僕、誕生日が一 …

新聞スクラップシリーズ“自転車の三角乗り”

これも去年の新聞。 おそらく今の若い人は知らないだろうなぁ。 自転車の三角乗り。 …

『日詩』4月11日〜20日アップしました

日々、いろいろありますが、 日誌ならぬ『日詩』続けております。 よろしければ 『 …