桂乃徒然

文筆業 佐々木桂 公式ウェブサイト

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サボりスト入門 朝日新聞連載エッセイ【全26回】

第1回 武蔵の気持ちが知りたくて

サボリをすすめるコラムを書くなんぞ、不謹慎甚だしいとお思いでしょう。私もそう思います。しかし、できるヤツほど、上手にサボってるのも事実です。
サボリストの基本は、自分のキャラを見極める「自己分析力」と、場の雰囲気を正確に読む「場面分析力」。重要な会議に遅刻しても、妙に憎めない言い訳をするヤツがいる。実はコレ、ちゃんと理由があります。だって、言い訳はプレゼンそのものなんですから。
たとえば、「向かい風が強くって」「武蔵の気持ちが知りたくて」「助けたカメに拉致されて竜宮城へ行ってました」なんていうフザケた言い訳。ふだん、ギャグ なんぞ言わないカタブツが言ってもシーンとなるけど、お調子者で通ってる人なら案外ウケる。「新婚なもんで」と顔を赤らめるのも、使える人は使えます。
じゃあ、マジメ人間なら、どうするか? 家族を病気にするのが一番。女性なら「課長のことを考えてたら寝過ごしちゃって」なんてのもアリでしょう。サラリと言ってのければ、上司はオロオロするっきゃない。
遅刻したのに、妙に堂々と、憤慨している態度をとる逆技もある。周囲は怒るより、「何かあったのか」と心配してくれます。2度は使えませんが……。

 

第2回 ああ、川の流れに現実逃避

「何のために生まれてきたんだ……」なんて考えが浮かんだら、魂がキューケイしたいと叫んでる赤信号です。移動時間を巧みに利用してサボり、リフレッシュしましょう。

全国共通で、移動時間を効率的に使えるのがバス。時間に追われる働き者には、見過ごされ嫌われがちなバスだけど、この「時間がかかる」という点が逆に休憩 には好都合。電車だったら寝ていられない距離でも、バスならゆったり昼寝もできる。なにせ、駅から駅への移動は、バスならたいてい、始発~終点のルートだ から寝過ごす心配もない。眠らないまでも、いつもと違う景色を見るだけでストレス発散になる。
サボるのにも季節感は大切です。水も温(ぬる)む この時期は、川下りが一番のおすすめ。日本には川が多いぶん、川下り遊びが残っている場所も多い。東京なら「隅田川」が最もカンタンな現実逃避の入り口で す。浅草駅を出てすぐの浅草吾妻橋から出発すれば、日の出桟橋まで40分。ホントにここが東京!ってな開放感を味わいながら、浅草-品川間を移動できま す。川辺の花々も癒やし系で2倍オイシイ。船の上でカップ酒片手に川風に吹かれる風流は、日々のストレスをすっ飛ばしてくれるはずです。

東京では、江戸川の水上バス、両国の水辺ラインもおすすめ。大阪なら市内を巡る水上バスがいいですね。

 

第3回 突然、休みたくなったら

今回は、急に休みたいときの言い訳編です。
基本テクは親戚(しんせき)の通夜、葬式、法事です。ただ、通夜は突然でも大丈夫というか、突然だからこそ信用されるので、利用価値が高いけど、葬式と法事は前もって上司に許可を取る計画性が要る。
「死んでもらう人」を間違えると、けっこう面倒なので要注意。若かりしころ、仕事がイヤで休もうと、実の親に死んでもらったら、上司が田舎まで訪ねてきて、たいへんな目に遭いましたから。
1日だけ休みたいなら遠い親戚、2~3日なら祖父母、もうちょっと長めなら義父母と、用途を間違えないように。 当然、会社の近くに住んでいてもらってはいけません。故郷は遠きにありてこそありがたい。もちろん、家族との口裏合わせは綿密にしてください。
当たり前ですが、「季節感」のありすぎるバレバレの行き先は使わないこと。会社勤めをしていたころ、3連休前に「長野での法事」を理由にしたら、「それってスノボーだろ!」と一喝却下されました。
サボリストの天敵・携帯電話は、ひと昔前なら「田舎で電波が届かない」も通用しましたが、いまはちょっと苦しい。「法事のさなかは電話に出にくいので、こちらからこまめに連絡します」の一言を忘れずに。こういうディティールへの気配りが大切なのですよ。

 

第4回 「お土産を買ってきました」

会社をサボるにも、アリバイが必要だ。だけど、わざわざ遠くまで出かけるなんてトンデモナイ! そう、お考えのあなたにオススメなのが、お土産活用術。「行ったはず」の地方の土産を差し出しながら、「遠出してたもんで」というわけだ。
使うのは、観光協会だ。東京や大阪などの大都市には、全国の観光協会の出張所がある。たとえば、わが故郷、秋田だったら、地場の減農薬のお米や名産の漬物、銘酒もそろっている。種類が豊富とはいえないけど、その地方の名産が、観光案内の資料と一緒に必ず置いてある。
東京だったら、JR東京駅八重洲口徒歩0分の鉄道会館(大丸デパートの上という方がわかりやすいかな)や、有楽町駅前の東京交通会館を覚えておけば、まず 困らない。大阪だったら梅田の大阪駅前第一、第三ビル。名古屋は市営地下鉄栄駅近くの中日ビルと柳橋のガーデンビル、北海道なら札幌の時計台近く、市役所 前にある北海道経済センターなんかに集まっている。
ちょっとした穴場が、JR新宿駅南口の新宿サザンテラス。ここには広島県の「広島ゆめてら す」と宮崎県の「新宿みやざき館」があって、名産を使った食事も楽しめる。アリバイづくりのついでに気分転換もできる。県などによっては、観光課と物産課 の出張所が別になっているところもあるから、観光協会に確認への事前確認はお忘れなく!

 

第5回 日ごろの行いが大事です

サボリストは、社内外に味方が多い。ちょっとした遅刻や手抜きをフォローしてくれる、ありがたい味方だ。
よく電話を取ってくれる庶務の女性や守衛のおじさんには、優しく愛想良くが基本。人間関係ができれば、たとえ寝坊して遅刻しても、「○○さん、××社直行だそうです」「さっき見かけたけど、急用ができたようでした」なんて、頼まなくても言い訳してくれる。
そんなポジションを獲得したいなら、絶対に、上司にゴマをする姿を見せてはいけない。逆に後輩の仕事を手伝ってあげるのはポイントが高い。何も、たいへんな仕事を手伝う必要はない。暇な時に、こまめに簡単な手伝いをするだけでも、ちりも積もれば高ポイントになるのだ。
この要領で得点を挙げておくと、自分の仕事を誰かに振りたい時も役立つ。あまりイヤな顔をせずに請け負ってもらえる。
今さら社内では無理だという人は、社外ネットワークの構築を考えよう。お得意さんとのギブ・アンド・テークだ。
例えば、休む理由が身内のやぼ用ばかりになってきたら、うち1回は相手側の地方の支店へ製品説明に行くことになった、といえるような関係にしておきたい。
この時、携帯は絶対切らないってのが鉄則。携帯がつながるという安心感が、上司の疑惑と深追いを未然に防いでくれる。

 

第6回 スーパー銭湯で和もうか

「五月病」なんて言葉が聞かれる季節です。「とりあえず就職しなきゃ」と思った新入社員も、「人生、こんなんでいいのかな?」と考え始めた中堅も、明日が見えないリストラ予備軍も、みんな心が悩みます。
わからないでもないけれど、何を悩んでも、ん十年もすれば、悩んでる自分自身がなくなっちゃうんだから、今を楽しく生きるっきゃない。そんなキリギリスを非難する人も多いんだろうけど、一度しかない人生、無駄に悩んでどうする。

もちろん、このご時世、お金はあんまり使えない。金欠だって立派なストレス。だったら安いお風呂はどうか? そんな人にオススメなのがズバリ、「スーパー銭湯」だ。
普通の銭湯よりも値段は高いけど、何千円もかかる「温泉テーマパーク」よりはずっと安い。それでいて、広い湯船で温泉に近い気分が味わえるし、露天風呂やジェットバスなど変わり風呂もある。
風呂から上がれば、ビールやお酒など種類豊富な飲食物を楽しめる。マッサージや床屋までそろっているところもある。
現在、全国で数百店舗が営業していて、さらに増える傾向にあるという。本物の温泉のような硫黄のニオイがついたりしないから、仕事中に立ち寄っても、バレない。
まさにサラリーマンのオアシス。全国に点在する隠れたサボリ、かつ、癒やしスポットなのですよ。

 

第7回 白鳥の水掻きを見習え

がんばってるようには見えないのに、成績を残すヤツがいる。残業もせずにノルマを達成し、おまけにきっちり遊んでる。これこそサボリストのめざす究極の姿なのですよ。
かつての同僚だった営業のA女史は、だいたい月の前半で目標をこなし、あとは遊んでた。特徴は、仕事帰りの飲み会にはめったに参加しないこと。「だって時間の無駄じゃない」
知人のB氏はフレックスタイム制をいいことに、始発で会社に行き、昼過ぎには退社してしまう。「ラッシュのない生活には、ストレスもないから」
かつての先輩の編集者Cさんは、昼は映画や本屋など、街でぶらぶらウオッチング。日暮れから会社にこもり(ちなみに残業代はつかない)、ほとんど会社に泊まっていた。「昼は電話がうるさくて仕事にならないからな」。先輩曰(いわ)く、「本当に必要な電話なんて100本のうち1、2本」だそうだ。
みんな優秀なサボリスト。優雅に水面をすべる白鳥が、実は必死に水を掻(か)いているのと、似ていませんか。
彼らの共通点は時間の使い方がうまいってこと。クリアな頭脳を保って仕事の能率を上げ、残った時間は価値ある遊びで心に栄養を補給する。これがまた仕事に生かせる情報を運んできたりするんだからたまらない。
会社的にはワガママでも、結果を出していれば、文句は言われないもんです。

 

第8回 日暮里は「ひぐれざと」か?

田舎から初めて東京に出てきた新人クンは、仕事の重圧に加えて、巨大都市・東京って街のプレッシャーにヘコんでいるころでは?
人口1200万の街で心が迷子になったような気分を払拭(ふっしょく)するには、まずは敵を知らなきゃ話にならない。くつろげる場所を見いだすためにも、東京を片っ端からガイドブック片手に歩こう。だが、地図を片手にしていては、田舎モン丸出しで恥ずかしい。秋田出身の私には、そんな気持ちが実によくわかる。
そこでオススメなのが、外国人用の英語ガイドブックだ。これが意外に便利で奥が深い。地名はローマ字読みすればいいし、「日暮里」を「ひぐれざと」と読んで大恥をかくこともない。電車や路上で堂々と開いていても恥ずかしくないどころか逆にカッコいい。
代表的な「Fodor’sシリーズ」なんかもあるが、「アマゾン」(http://www.amazon.co.jp/)なんかに行くと、千円から2千円ぐらいで、いっぱいある。簡単な英語だし、しょせん日本のことだから推測で理解できる。「自動販売機」のことを「vendor」というなんて、学校で習ったっけ。英語の勉強にもなり、最小の努力で、最大の効果を求めるサボリストには、ぴったりだ。
宿泊客の9割以上が外国人という旅館や、外国人バックパッカーが500円で腹いっぱいになる食堂など、思わぬ情報も発見できる。

 

第9回 ふらり一杯で、あら不思議

サボリストたるもの常に「瞬間にリフレッシュ」の手段を持っていなくちゃいけない。
そのひとつが「ランチビール」だ。最近は、ファミレスなんかでも当たり前になってきた。酒に飲まれるのは困るけど、ちょっとのアルコールはストレスの解消剤。心が疲れてる時には、半端な栄養ドリンクよっか効くこともある。
ひと口で、顔が真っ赤になる人は無理だけど、少しはイケるなら試す価値はある。
「昼酒」のコツは長居しないこと。だから、できればランチビールより、立ち飲みがオススメ。あくまでも午後の仕事に向けての気分転換、起爆剤なんだから。昼下がりに、ふらりと入って、スッと頼んで、クッと飲んで、サッと出る。
立ち飲み屋さんは、その名の通り「立って飲む」ところ。東京・浜松町駅近くの老舗の秋田屋は、夕方になれば、歩道までサラリーマンでごったがえす。つまみも豊富で、女性客も訪れるから、初心者向きだろう。
でも、少し慣れたら、酒屋の立ち飲みを見つけたい。これは全国各地にある。酒屋だから、朝からやっている。店の片隅がちょっとしたカウンターで、酒は1合単位の量り売り。近所のご隠居あたりが常連だと最高だ。思いもよらない情報が入手できるかもしれない。何げない酒屋に、ふらりと入り、気っ風よく、おもむろに「酒」とつぶやければ、あなたも立派なサボリスト。

 

第10回 傘を捨てよ、町へ出よう

梅雨の季節には、雨の恵みに感謝するにしても、アスファルトジャングルで、スーツがジトジトぬれるのは、やっぱり勘弁願いたい。営業で訪ねる相手に失礼だし、まず、湿った靴ではモチベーションが大きく下がる。
そこで今回はサボリスト流の梅雨対策を紹介しよう。雨といえば傘。でも、雨がやめば邪魔だし、置き忘れれば悔しいし、腹が立つ。いっそのこと傘を捨てて梅雨に挑むところに新境地が開けている。
まず、地下鉄とコンコース、アーケード、ひさしの長い店の軒先、商店街を熟知しておく。たとえば東京。大手町から東銀座まで、まったくぬれずに歩ける。地下鉄でいえば、大手町→二重橋前→日比谷→銀座→東銀座というコースを、地下道でたどれる。半径約1キロほどを歩き回れる計算だ。
大阪なら梅田、難波、名古屋は栄、福岡の天神にも大きな地下街が待っている。夏になれば、利用価値はさらに高くなる。冷房がきいているし、直射日光も避けられる。
東京・中野、大阪・心斎橋、天神橋をはじめ、仙台などの地方都市にも多いアーケード街もありがたい。
ビジネスエリアが決まっているなら、晴れた日に下調べをしておこう。イヤなことを排除するためなら意外にマメになるのもサボリストだ。寺山修司ではないが、「傘を捨てよ町へ出よう」なのだ。

 

第12回 「はとバス」で英語ナンパ

サボリストたるもの、「さぼって何をするか」に存在意義がかかっている。気分がめいり、行動範囲が限られる梅雨どき。「はとバス」に乗ってみよう。ただし、英語版である。
東京タワー、皇居、浅草、銀座などの定番コースから、歌舞伎鑑賞、茶の湯体験まで、11のツアーがある。値段は半日ツアー4000円から、ディナー付きの14000円まで。もともと海外からの観光客用のツアーだが、今では英会話の上達のために乗り込む日本人もいる。当然、外国人観光客が圧倒的に多いから、話しかければ、すぐさま、そこは英会話教室。
まったく英語がわからなくてパニクッても、我に返ればそこはニッポン。ガイドさんは日本人なのだから、日本語で質問すればいい。他人に聞くのが恥ずかしいような質問もOKだ。
もちろん、バスツアーのあとに、同乗の外国人を飲みに誘うのもアリ。異国の地では、地元のひとに誘われると、ちょっと乗り気になるものだ。ちなみに「ちょっと、時間あります?」「とっておきの飲み屋」「軽く一杯」は、それぞれ「Do you have a minute?」「hideaway」「stop for a drink」と言うんですね、これが。
わたしの友達の友達に、「はとバスでのナンパ率は50%」と豪語する男もいたことをつけ加えておきます。京都など観光地にも「英語バス」は走っている。サボリストは国境を越えるのです。

 

第12回 ポンチョ、長靴の黄金コンビ

先週は「傘を捨てよ町へ出よう」と寺山修司を気どってみたが、梅雨の時期には、どうしても雨に打たれなければならないときもある。厄介者を無難にやり過ごすだけでなく、積極的に楽しんじゃうのもサボリスト。今週は快適梅雨ファッションについて、だ。
まずコンビニで100円くらいで売っている使い捨てポンチョ。これが結構、バカにできない。すっぽりかぶれば身体だけでなく、バッグも全く濡(ぬ)れない。たためば野球ボールぐらいになってポケットに入る。
「安物じゃ恥ずかしい」という人にオススメなのが、携帯用コンパクトコート。例えばビアスポが出しているマイクロウエザーコートだったら、ひざ下まであるのに、フード付きでわずか340グラムという軽さ。通気性に富み、蒸れずに過ごせるのもうれしい。雨のなか、「傘を気にしてちょこちょこ」より、「両手を振って堂々と」の方がどれだけ爽快(そうかい)か。やってみてほしい。
ただし、長めのポンチョも足下まではガードできない。そこでポンチョには長靴を合わせたい。フランスのAIGLEをはじめ、海外のアウトドア用品にはオシャレな長靴が多い。スーツでも決しておかしくはない。外を歩くときにはズボンのすそを長靴に入れて、訪問先に着いたらすそを出して靴にかぶせれば、見た目は高級ブーツ。ただし、足を組むとばれるので要注意。

 

第13回 あなたの時給、いくらなの

自分の価値を知らずして、真のサボリストとはいえない。単なる「オレ様」意識でサボっても、会社でのあなたの価値が暴落していたら、「サラリーマンライフ」は赤字になってしまう。まずは自分の値段を知ること。
その最もカンタンな方法は、年収を時給換算してみることだ。年収400万円の人が、1日8時間で月に20日働くとすると、時給は約2000円(意外に高い)だ。サラリーマンなら、コレはサボってもサボらなくても入る金。つまり、1時間のサボりは2000円の価値があることになる。1時間さぼって「副業」をすれば、アルバイト代プラス2000円が手に入る計算だ。
逆にいえば、働くと1時間に2000円の価値がある人が、通勤時間に1時間もかけて、ただ苦痛だけを味わっていたら、往復で4000円の損。月に通勤で8万円も損をしている計算になる。
現金をケチって地下鉄に乗らずに歩いたとする。それを散歩と考えてリフレッシュタイムに充てるなら問題ないけど、ただただ体力を使うだけっていうなら、30分歩くのは1000円の損。160円払って地下鉄に乗って、早めについたらコーヒータイム……、てな時間の使い方をした方がまだお得だ。「時は金なり」とは、決して時間を惜しんで働けっていう意味じゃあない。
カルロス・ゴーンじゃないけど、「コスト感覚」なんですよ。人生収支を黒字にする。それが、サボリストなのです。

 

第14回 ステーキな時間の作り方

サボリストの鉄則に、「細切れ時間を作るな」がある。ちまちました時間をひねり出すのではなく、どうやってまとまった自由時間を生み出すか。
たとえば、通勤時間。これの大原則は「ずっと遠くか、ずっと近くか」につきる。
先日の朝日新聞に「『千代田に家』 区がPR」という記事があった。都内の会社員の平均時給を2,950円、1世帯1.5人、通勤先を大手町と仮定した場合、通勤時間20分の千代田区民は、65分の横浜市青葉区より月13万8千円分もの通勤前後の「時間待ち」だそうである。もちろん、家賃は格段に違うが、通勤時間を金銭換算しての「計算」である。
家が近いと、勤務中に勝手に作れる時間も大きい。これから始まる暑い夏、会社を抜けて帰宅してシャワー。昼休み、わが家のふかふかベッドでシエスタ(昼寝)も可能というわけだ。
まったく逆に、田舎に家を持ち、通勤時間を2時間、3時間にしてみるのもいい。
人間、ちまちました時間なら「どうつぶすか」を考えるが、巨大な時間がいきなり登場したら、なにかをせずにはいられない。全集を片っ端から読むなり、本を書くなり、英会話、資格取得のテープを聞くなり。サボリストたるもの、自分自身を「せざるを得ない」状況に追い込むのも上手でなくてはならない。
細切れ肉より、どーんとしたステーキ。食指が動くのはどちらか、おのずと明らかだろう。

 

第15回 安価に楽しむ異次元ニッポン

近づいてきた夏休みに、気分が小躍りしない人はいないだろう。たった数日の夏休みをバケーションなんぞと呼んだら欧米人がバカにする…なんてことは考えない。質は量を凌駕する。合い言葉は「異次元を作れ」だ。
サボリストたるもの、まとまった休みに、いつも仕事をサボってできる遊びをする。
なんて愚の骨頂。そこで、おすすめは「和風アグリトゥリズモ」。イタリア語の農業「アグリクルトゥーラ」と観光「トゥリズモ」とを合成した言葉だ。ようするにイタリアで最近、活発な「自然生活から英気をもらう旅」のこと。都会で疲れたサボリストにぴったりではないか。
日本にもいっぱいある。手前みそだが、わが故郷、秋田県東成瀬村(0182・47・3401)では、15年以上まえから「仙人修行」と称した、軽い断食や座禅、山歩き、ワラジ作りなどを楽しむ2泊3日のイベントを開催し、都会の旅人を招いている。
ほかにも、山梨県道志村・水源の森(0554・52・2770)には、そば打ち教室なんてのもある。自分でそばを打って、食う。福井県美浜町・丹生漁業協同組合(0770・39・1900)では地引き網などの漁師体験でアジ、サバ、ブリ、イカと対面でき、その場で調理もOK。どれも格安。ほとんど 5000円以下の出費ですむ。
今年の夏、サボリストは、安全、安価でニッポンを楽しむべし。

 

第16回 シンドイ夏を超クールに

「汗は身体を冷やすもの。なのに熱湯が出てきてどうすんの!」とぼやいても、街ゆく汗まみれのビジネスマンからは突っ込みも返ってこない。今回は「汗を制する者が夏のビジネスを制す」の巻、汗対策です。
うだる暑さのなかで、ひとり涼しく過ごせるとしたら、そりゃ、どっか、サボってるってもんです。
まず、イチ押しは清涼ペーパータオル。揮発剤が入っていて、身体をひとふきすれば、したたる汗を瞬時にひかせる魔法の紙だ。Biore(花王)、それにSEA BREEZE(エフティ資生堂)など、各メーカーから、サイズや清涼度、香りの違うタイプがかなり出ている。
個人的なオススメは、GATSBY(マンダム)の「アイスデオドラントボディペーパー」か、uno(資生堂)の「アイスダイレクトタオル」。どちらも思わず寒気が走るほど超クール。
コンビニで売ってるホカロンの冷却バージョンともいうべき「ヒヤロン」(ロッテ)もバッグに1個しのばせたい。手のひらを冷やすと、汗はひくそうだから、これを手に握っていればOK。首にあてても、背中に入れても大丈夫だ。冷却スプレーを持ち歩く手もある。特にSEA BREEZEの「肌ヒヤ」という新製品が面白い。
サボっていても、シンドイ暑い夏。いかにサボるかだけじゃなく、いかに涼しくサボるかが課題なんです、これが。

 

第17回 夏に負けるな、秘伝水浴び術

いつぞや、どこかで、漫画家の東海林さだお氏が書いていた。「ビール飲む前におじさんが、おしぼりで首とか腕とか、ふくでしょ。あれ、瞬間シャワーなんですよ」
これからの猛暑、サボリストはおしぼりなんかで満足せず、本格的にシャワーを浴びてリフレッシュしてしまう。水遊びは「サボり充実度」を急上昇させてくれるのだ。
さて、どこで浴びるか。銭湯は夕方からが多いし、サウナは高い。狙い目は、いたるところにある市民プールや公共のジムだ。外回りの途中に300円~400円ほどで入場でき、入って出るまで10分でOK。ドライヤーとかシャンプーが備わっているところもある。ただ、「泳がない人の利用禁止」というプールも少数ながらあるので慎重に。
大きな駅、百貨店、スーパーとかの清潔なトイレも、シャワー室に早変わりする。100円ショップなんかでタオル1枚を買い、それで身体をふくだけでも「快カーン」だ。
でも、いつも思うんですけど、オフィスに「シャワー室」があればいい。眠くなったとき、仕事が行き詰まったとき、ちょっと抜け出してシャワーを浴びる。たばこを吸いに席を離れるよりずっと健康的で、生産的なのではないだろうか。
まあ、自分の活動エリアに、いつでも逃げ込める水浴び場を一つ確保しておくと、なにかしら心に余裕ができるもんです。

 

第18回 「社内恋愛」4つの鉄則

「サボって時間があるから恋をする」のか、「恋をするためにサボって時間を作る」のか。どちらにしても、サボって楽しむ恋愛は、なかなかスリリングな充実感をもたらしてくれる。今回は恋愛指南編だ。
自らの会社員経験と、先輩や同僚の教訓、失敗談を総合すると、ざっと以下のようになる。
まず、いくら「効率」を求めるサボリストでも、基本的に社内恋愛には手を出してはいけない。社内で評判が立つと、お互い引くに引けなくなる。結婚しても、相手は給料、各種手当、福利厚生、さらには出世競争の構図まで熟知しているから、やりにくいことこのうえない。
ただ、「大半の人間は半径3メートル以内の異性と結婚する」という説もあるくらい、職場が「危険な空間」であることは確かだ。そこで、社内恋愛の「掟(おきて)」を心得よう。
第1は、会社の近くじゃ、絶対会わない。近場の流行の店に行くなんて「お披露目」そのものだ。第2は、相手に同僚の悪口を言わない。いくら相思相愛であっても、ひょんなきっかけで、いつなんどき、当人の耳に入るかわからない。第3は、運悪く別れるなら、明るく笑顔で。もとの恋人が会社で一番の「抵抗勢力」のボスになることは珍しくない。
そして第4は、社内恋愛は一度で懲りること。暑い夏、恋の夏、脳が溶けフェロモンが流れる季節。みなさん、慎重に慎重に。

 

第19回 帰省妄想ディスカッション

帰省ラッシュで、車や電車のなかで、「ささいなことで親子バトル大会」「お父さんだけぐったり沈没」の光景が見られる季節がきた。わが家でも、犬・猫・子連れで秋田の山奥までの大移動が待っている。スムーズに行っても車で7時間、渋滞に引っかかったら、ゆうに10時間はかかる。
しかし、サボリストの基本は「どこでもリラックス&リフレッシュ」。渋滞なんぞ、サボリ気分で乗り切りたい。そこで絶対のおすすめが、現実逃避の妄想ディスカッション。わが家のテーマは毎年「もし巨額宝くじが当たったら」。アメリカで現実にあった156億円の使い道をとことん論議する。
やってみるとわかるが、この金額、庶民の頭ではなかなか使いこなせない。豪邸を建ててもせいぜい10億。ひとり1軒にしようなんて言っても30億しか減らない。残りの人生30年としても、毎年5億2000万円。毎日の小遣いが142万円だよ。
そこで最後は「親族や友人にあげよう」てなことになる。これが実に毎年、ころころとメンツと金額が変わっておもしろい。兄弟でも付き合い方、仲のよさを反映して金額が上下するし、ましてや友人だったりすると、去年は「1000万円あげよう」なんていってたヤツが今年は登録抹消も当たり前だ。
妄想全開、議論百出のうち、知らず知らずに故郷の土を踏めるのである。

 

第20回 帰省先からPDAでひと仕事

子どもの夏休みは終盤へ。でも、仕事に追われ、家族サービスの余裕がない、というお父さんがいるかもしれません。そこで今回は「仕事も休暇に連れて行こう」の巻。「休日を返上するよりは、休暇先でちょこっと仕事を」という考え方です。
私はいつもノート型パソコン派。仕事でずっと事務所に監禁されたのではたまらないので、資料もパソコンに入れ、電車の中や人を待つ時間もビジネスタイムにする。
ところが最近、そのパソコンが故障し、PDAと呼ばれる携帯情報端末を入手した。手のひらにのる約250グラムの優れもの。私のはシャープ製だが、ソニー、富士通など5万円前後でいろいろある。
キーボードが小さく、ストレスがあるかと思いきや、ゲームの要領で両手の親指2本のタッチにすれば、スラスラと原稿が書ける。メールで送られてきたワードやエクセルのファイルを開くことができる。
要するに、PDAは大きくなった携帯電話、小さくなったノートパソコンと考えればいい。ケータイやPHSをつければ、いろんなところでインターネットにアクセス可能なので、電車内、公園、海、山でも瞬時に「オフィス」に代えてくれる。
家族と遊びに行き、ちょいと空いた時間に気分転換で仕事を完了、といけます。ちなみにこの原稿、帰省先の秋田の川べりで、子どもの遊ぶ姿を見ながら書きました。

 

第21回 コンビニがプリンターになる

世は進化している。時代についていくのはしんどいが、サボリストたるもの、自分の時間を作りだすために努力を惜しんではいけない。
ただ、ありがたいことに、情報機器やサービスは「楽をしたい」という万人の願いにこたえようと進化している。「情報持ち」が勝利する。
たとえば、ファクス。送信はコンビニでOKだけど、受信はどうする?
クロネコ@ファックス(http://www.kuronekofax.net)は、使える。あらかじめ登録(無料)しておくと、自分だけのFAXボックス番号とメールアドレスがもらえ、全国8000のコンビニで、ファクスを引き出せる。
このシステムは、プリンター代わりにもなる。自分から自分にファクスを送り、コンビニで取り出せばいいのだ。自分が「紙」で受け取るまで他人の目に触れないため、ふつうのファクスより「秘密性」を保てる。
また、i‐modeのリモートメール(http://rstyle.jp/rmail/i/kinou1.html)というサービスも便利だ。登録すると携帯電話でワードやエクセルの添付ファイルを見られる。文字制限がないのが「売り」だ。ファクスでの出力もできるので、これもコンビニのファクスをプリンター代わりに使えたりする。
いまの時代、事務所にいる必要なんてないのだ。

 

第22回 残暑をしのぐ「オアシス」を

「残暑厳しい」では、すまされない。なんなんだ、この「うなぎ登り猛暑」は。確実なのは9月になっても、外回りビジネスマンには過酷な季節がしばらく続くということである。
ただ、いくら暑くても、会社にいては仕事にならない。といって喫茶店では出費もかさむ。そこで注目したいのが、企業のショールームだ。世はPR時代。車やパソコン、カメラや家具、さらにはお酒やたばこの「常設展示場」がいたるところにある。
冷房完備で、新製品が見放題、触り放題。それもタダだからいうことなしだ。
たとえば、クルマ。東京なら、ホンダの「ウエルカムプラザ青山」のような大型スクリーンでF1の映像を見ながらゆっくりできる施設も多い。地方には、地元ディーラーのショールームがある。絶対に営業されないという強い意志と、説明に合いの手を入れる余裕さえあれば、お茶やお菓子まで出してもらえる。ひとこと最初に、「他社の車も考えているので、がっかりすることもありますよ」とつけ加えておけばいい。
車に興味がない人には、住宅展示場がおすすめだ。平日はほとんど暇そう。「ゆっくり時間をかけて見る」が基本だから、展示場のスタッフもうるさく営業してこない。
サボリストには、冷気を求めて英気を養い、やる気を出してふたたび「試練の旅」に旅立つ「オアシス」が必要なのだ。

 

第23回 1週間「雲隠れ」のおススメ

「ここから逃げ出したい」と思うのは危険な兆候だ。会社から、通勤電車から、家庭からも。でも異常ではない。だれでもよくあるストレスなんです。
生きていくうえで、「ストレス・マネジメント」は実に大事だ。サボリストは究極の「ストレス・フリー」でありたい。
さて、働きつつ、どうやって「逃げる」か。たとえば1週間単位のウイークリーマンション。ベッドや簡易なデスク、キッチンなど最低限の備品があり、気が向いた時にちょっとだけこもる隠れ家。IT機器などが装備されている場合もあり、身体ひとつで飛び込める。
「衣食住」を普段と一変させる場所を選ぶことがコツだ。郊外に住む人なら都心、都心居住者なら下町とか、自宅とまったく違う空間を。会社には行くが、同僚とはつき合わず、帰宅後は近所の銭湯に行ったり、服を着替えてバーに顔を出したり。部屋に閉じこもって本を読んでいるだけでもいい。
「定宿」も決めよう。疲れた時にそこが恋しくなり、そこへ行けばなんとかなるという気持ちになる。この「逃げ込み感」が貴重なのだ。
信じられないかもしれないが、そんな生活を1週間ほど繰り返すと、「日常」が恋しくなり、「さあ、やってみるか」というモチベーションもわいてくるんです。家族の説得は甲斐性(かいしょう)で。明るい顔になって戻ってくれば、家族も喜ぶはずだし……。

 

第24回 「なんとなく」から始めよう

人生を振り返ってみると、どうして自分がいまの「生き方」を選んでいるのか、わからなくなるときがある。仕事、家庭、趣味、それに交友関係。突き詰めると、初めは「なんとなく」だったことが多いことに驚く。
さて、芸術の秋、スポーツの秋、習い事の秋。つまらない仕事はさっさと片づけて、まったく違う自分を探しに街に出る。めざすは「見学自由」「体験入学OK」の各種スクールだ。
たとえばボクシング、空手、合気道なんかの格闘技系ジム。「まだ、思案中ですが……」と顔を出してみると、見学者でもけっこう本格的なレベルの実技をやらせてもらえる。
オバサンの井戸端会議場ぐらいの認識しかないダンス教室だって、行ってみれば運動量やステップの難しさに驚く。よく駅前にある語学学校で、スペイン語や韓国語などの「英語以外」を聞きかじってみても、あいさつぐらいは覚えられる。
大事なことは、確固たる目的を持たないこと。「ふらり、なんとなく」が重要。あえていえば、本来の自分の興味の対極にあるスクールを意識的に選び、ひまをつぶすこと。
日々の生活に追われて同じ毎日を繰り返していると、自分で自分の「興味」を限定していることが多い。「ひまでなんとなく」から「未知の自分」が発見でき、人生が変わるとまではいわないが、生き方の「幅」が少し広がるかもしれないよ。

 

第25回 着物の裾から秋を楽しもう

サボリストは季節に合わせて「脱皮」する。お天道様に背くような気分転換に努めるより、お天道様を味方にしてリフレッシュするのだ。
昼はまだまだ暑くても、夜になれば、秋の涼しさがあるはずだ。実は、いまこそ浴衣が心地よい季節なのだ。やってみればわかるけど、夏の浴衣は結構暑い。浴衣とは、季節の移ろいをかみしめながら、裾(すそ)から吹き込む、ひんやりした秋風を楽しむものではなかろうか。
浴衣に身を包んだ勢いで、一気に普段着を着物に替えてしまうのはどうか。サボリストの基本はリラックス。スーツを脱ぎ捨て、アフターファイブは着物で過ごすのも、ちょいと一興かもしれません。「仕事モードからどれだけ逸脱できるか」が、リラックスの基本だからです。
めざすは、サザエさんちの波平さん。浴衣に丹前を重ねてヘコ帯でグルッと締めるなどの簡単和装だ。慣れたら外出用の着物を買い、帯も角帯にしてみる。作務衣(さむえ)まで欲しくなったら、一挙に普段着を和服に変えてみては?
ひそかに、男の着物がはやっているようでもある。たとえば東京・銀座の呉服店、もとじが男性専門店(http://www.motoji.co.jp)を設け、初心者向けイベントや着付け講座を開いている。
和服の「和」って、「和(なご)む」「和(やわ)らぐ」とも読めますからね。

 

第26回 こころの雫が濁らぬように

人間、見方ひとつで「リセット」できるものだ。最近、「1日版『早期退職』」を提唱している。50歳での早期退職制度があるように、その日の仕事に区切りをつけ、午後2時とか3時に退社してしまうのだ。
人間、だらだらと作業を続けるよりも、締め切りに向けて集中的に仕事をするほうが効率があがることがある。午後2時に帰ると決めると、やる気も出るというものだ。もちろん、仕事によっては無理かもしれないが、架空の「退社時間」を決めて気分一新し、また次の仕事に向かうという裏技もアリだ。
人生長くやってると、心にも体にも、いろんな澱(おり)がたまってしまう。それを時々はがしてやる「技」を持ってないと、重たくってしょうがない。
手前みそだが、私の詩集「東成瀬村岩井川字村中25」に次のようなフレーズがある。

どんなに遠く離れようとも
幾年月を重ねようとも
その一粒の雫(しずく)は
生まれた時のままの
澄みきった雫にほかならない
川面の雫が濁らぬように
心の雫が濁らぬように

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